「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース16 がんを疑われたが経過観察と言われた木下さん夫婦(45歳男性、48歳女性)

以前、徹底的にがんを調べたいということで相談があった木下さんから、再度相談がありました。

一緒に人間ドックをうけたところ、がんが疑われ専門病院を受診したそうですが、二人とも経過観察となったようです。

がんが疑われるのに経過観察とは一体どう言うことなのでしょう。

 

 

木下さん:都先生、聞いてくれよ! 妻と一緒に人間ドックでがんを調べてもらったんだけどさ、二人ともがん疑いって結果が出たんだよ。それぞれ専門の病院を紹介されたんだけど、そこで経過観察と言われちゃったんだよ。がんが疑われるのに何で放置されるんだろうね。

 

Dr都:もしかして肺がんと甲状腺がんですか?

 

木下さん:そう、よく分かったね。ものすごくショックで慌てて病院に行ったのに、様子見ましょうっだって。3か月後に再検査らしいけど。結果を持ってきたけど見る?

 

Dr都:拝見します。なるほど、木下さんの場合は、肺に9mmのすりガラス状の影が見られたのですね。で、奥さまは7mmの甲状腺がん疑いですね。これだと私でも経過観察しますね。

 

木下さん:がんを疑っているのに、何でこれ以上検査をしないんだ?不安でしょうがないよ。

 

Dr都:木下さんの肺の陰は、がんの可能性も少しはありますが、それよりは前がん病変と呼ばれるものや肺の炎症の影の可能性があります。もし炎症だと数か月後には消えてしまうことがあります。前がん病変だったとしても、数か月で悪化することは少なくて、本当にがんになるかどうか数年間CTで経過をみてから手術することもあります。

 

木下さん:数年も? なんかその間落ち着かないなぁ。

 

Dr都:もしがんかどうか確定検査をするとなると、①気管支鏡検査:かなり細い胃カメラのようなもので細胞や組織を取る、②針生検:胸の外から太い針を刺して組織を取る③手術:腫瘍そのものを切除するのいずれかの方法で病理検査に出すことになります。

いずれも合併症が起こる可能性があるため、がんが強く疑われるようになるまでは経過観察をすることが多いです。

 

木下さん:それぞれどんな合併症があるの?

 

Dr都:①気管支鏡検査では、咳や肺炎、出血が起こる可能性があります。②針生検ではかなりの割合で気胸が起きますし、出血がみられることもあります。③手術は出血や縫合不全の他に、全身麻酔による合併症が起こる可能性があります。

すべて安全な検査という訳ではないので、リスクがメリットを上回る、つまり診断を付けなければならないという場合に行います。

 

木下さん:うへぇ。じゃあ、経過観察で良い気がするよ。

 

Dr都:そうですね。次の検査まで不安はあるかもしれませんが、今の段階ではリスクの方が上回る可能性が高いですから。それに、今回の影は、おそらくレントゲンでは見つけられません。もしこれががんではなかったり、がんだとしても何年経っても進行しないものだった場合は、CTだからこそ見つけてしまった過剰診断と言えます。レントゲンだけ撮っていたら、おそらく見つからなかったでしょう。

 

 

木下さん:徹底的にがんを調べたいと言ったけど、こういうこともあるんだね。

 

Dr都:見つけてしまった腫瘍は、前がん状態や超早期がんのまま進行せず、生命を脅かさないものという可能性はあります。しかし、現在の医学ではその判断が付きません。

 

木下さん:見つけなくても良いものを見つけてしまったか…何か難しいね。

 

Dr都:そうですね。同じようなことが甲状腺がんでもあります。10㎜以下のものは微小甲状腺がんと呼ばれ、特に40歳以上では手術は行わずに経過観察をする考え方が主流となってきています。

 

木下さん:でも、肺と違ってがんはがんなんだから、手術しておいた方がいいんじゃない?

 

Dr都:手術には反回神経麻痺といって声がかすれてしまう合併症がありますし、甲状腺がんはほとんど女性がなるがんなのですが、首に手術の傷ができてしまいます。ある文献によると、35歳以上の女性の3.5%に微小甲状腺がんが存在するされています。甲状腺がんは、多くの人が気付かずに一生を終えるがんなのです。それをエコーをすることで見つけてしまったことは、過剰診断と言えます。

 

木下さん:がんなのに進行しない可能性が高いし、気付かず持っている人が多いか…

 

Dr都:以前、福島県を中心に小児の甲状腺をエコーで調べてがんが見つかったことが話題となりました。当時は30万人検査して、116人の小児に甲状腺がんが見つかりました。頻度は0.04%くらいです。これまで小児の甲状腺を大規模に調べたことがなかったので患者数がセンセーショナルに報道されましたが、実は他の県で調べてみても同じような頻度でした。見つけなくても良かったかもしれない、調べなければ一生気付かずにいて生命予後に関係がなかったかもしれない甲状腺がんを見つけた可能性があります。

 

木下さん:てっきり、放射線の影響で増えたのだと思っていたよ。

 

Dr都:福島と甲状腺がんの話は長くなるのでもう止めますが、木下さんと奥様は経過観察でよいと思いますよ。次の検査の結果で気になることがありましたら、またご相談ください。

 

木下さん:ありがとう。少し気が楽になったよ。

 

 

~ちょっと一言~

検査の精度を上げれば上げるほど様々なものが見つかるようになります。もちろん、過剰診断になる可能性があっても早めに検査や手術しても良いのですが、短い期間で検査を続けていれば、手遅れになることはまずありません。このあたりは患者さん本人と主治医の考え方次第なので、よく話し合ってお互い納得できてはじめて経過観察となります。