「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース28 在宅緩和ケアについての話題

前回凹んでいた立花先生はだいぶ立ち直ってきたようです。

今回は前回話題に出たホスピスから、在宅緩和ケアの話題です。

 

Dr立花(以下C):先日はありがとう。凹んでいたから助かったよ。

 

Dr都(以下M):どういたしまして。今日はどうしたの?

 

C:前回最後の方でホスピスの話が出たじゃない?あれからホスピスについて調べたよ。恥ずかしながら、ホスピス=がん患者さんが最期を過ごす病院って思っていたけど、「全人的に患者さんをケアする」考え方のことなんだね。

 

M:そうそう。実は外国でもホスピス=死にゆく場所みたいなイメージがついちゃってて、世界中でホスピスという言葉が使われなくなってきているんだ。日本も同じで、最近では緩和ケア病棟、もしくはホスピス・緩和ケア病棟と表現されることが多いね。

 

T:何も治療ができなくなった患者さんに、最期を迎える場所についての話をするのがちょっと苦手なんだよ。患者さんはホスピス・緩和ケア病棟について調べているのかなぁ。

 

M:2012年に日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査」によると、ホスピス病棟や緩和ケア病棟について「よく知っている」が13.0%、「ある程度は知っている」は48.4%という結果だったんだ。患者さん側も知ってはいると思うよ。

 

C:実は、昔ね、もう何も治療がなくなった患者さんに「ホスピスを探してください」と言ったら激高されてさ。「先生は、俺に死に行けというのか」って…。それが苦手になったきっかけなんだ。

 

M:その誤解はいまだにあるよね。緩和ケアは診断早期から始めるものだし、ホスピス病棟・緩和ケア病棟でも症状が良くなったら退院できるのにね。

 

C:そうなんだ?いったん入院したら最期までいるのかと思っていたよ。

 

M:違う違う。ホスピス・緩和ケア病棟で落ち着いたら在宅診療へ移行することもあるよ。逆に在宅診療できつくなったら病棟へという選択肢もあるんだよ。ホスピス・緩和ケア病棟はまだまだ足りないから、在宅診療と連携することで多くの患者さんが利用できたらいいなと思う。

 

C:俺の患者さんもホスピス・緩和ケア病棟を探すのにだいぶ苦労しているみたいだったな。

 

M:一般病院の医者ってホスピス・緩和ケア病棟や在宅診療への紹介が遅れがちなんだよね。緩和ケアの誤解を解いて、もっと早くから緩和ケアを始めないと。特に在宅診療の場合、ギリギリまで病院で診ていてあと数日って時に自宅に戻されることがあるんだけど、自宅に戻ってすぐに亡くなられても、在宅医との信頼関係を築けなくて困っちゃうよ。

 

C:その患者さんの誤解を解くのが難しいんだけどさ。俺の病院にも緩和ケアチームがあればいいのになぁ。

 

M:まあ、手術や外来で忙しい医者に何でもかんでもしろというのは厳しいよね。あとは、患者さんも緩和ケア病棟や在宅緩和ケアについてあまりよく分かっていないから、遅れちゃうんだろうけどね。

 

C:そんなに知られていないんだ?

 

M:先ほどの意識調査では、ホスピス病棟や緩和ケア病棟の認知度が6割だったのに比べて、在宅緩和ケアは35%くらいしかないんだ。

 

C:俺も在宅緩和ケアについてはあまり知らないしな…。ケースワーカーさんから、「ホスピス・緩和ケア病棟は入れないので、在宅診療になりました」という報告は受けるけど…。

 

M:さっきの意識調査によると。「もしあなたががんで余命が1~2か月に限られていたら、自宅で最期を過ごしたいと思いますか」に対して8割以上の人が自宅で過ごしたいと回答していたんだ。でも、「自宅で過ごしたいが、実現は難しいと思う」と回答した人が6割もいたんだよ。

 

C:やっぱり自宅がいいんだよね。でもなぜ実現は難しいと感じているんだろう。在宅だと最期を看取れないと思っているのかな?

 

M:うーんそれよりも他の問題かな。先ほどの続きで「自宅で最期を過ごすためにどのような条件が必要だと思いますか」という質問に対して、「介護してくれる家族がいること」「家族にあまり負担がかからないこと」と回答した人が過半数いたんだ。在宅には、面会制限なく家族がそばにいられるという最大のメリットがある反面、それが負担になるんじゃないかという心配ががあるんだと思う。

 

C:でも、そのあたりは医療サービスでサポートできるんじゃない?

 

M:訪問介護訪問看護などのサービスを手厚くすれば家族の負担は減るんだろうけど、今度は家族への「経済的な負担」になっちゃうかな。

 

そういえば、さっきの質問で過半数はいかなかったけど、「急変時の医療体制があること」「自宅に往診してくれる医師がいること」が必要という回答もあったんだよ。

 

C:やっぱりそこは気になるよね。在宅緩和ケアだと、急変時はどうするの?

 

M:医者が駆けつけられれば理想だけど、他の診療に当たっている時や夜中だと難しいことがあるんだ。ほとんどの在宅訪問診療クリニックが24時間対応の訪問看護ステーションと提携しているから、そこにお願いすることもあるね。最終手段としては提携先の病院に搬送してもらうこともある。

 

C:なるほどね。皆で連携してカバーしあうことが大事だな。

 

M:在宅医と患者さんの間で「最期」についてしっかりと共有されていて、かつ医療機関同士が連携が取れている場合は、急変時でも問題はほとんど起こらないね。ただやっぱり、「最期」の迎え方について十分なコミュニケーションが取れていない場合や、医療機関同士の連携がうまくいっていない場合はトラブルが起こることがあるね。

 

C:コミュニケーションか…俺も気をつけなきゃな。自宅に戻った患者さんは、在宅医に任せちゃって、もう俺の手を離れたと思っちゃうもんな。

 

M:在宅に移行する際には、病院主治医との関係は重要なんだから気を付けてよ。特に、患者さんが「病院を追い出された」「見放された」なんて気持ちのまま在宅に移行したら、その後が大変なんだからさ。頼みますよ!

 

C:はい…気を付けます。

 

 

~ちょっと一言~

在宅訪問診療では末期がん患者さんには結構な加算が付きます。加算目的で、緩和ケアの知識も乏しく、常勤医も不足している中で、末期がん患者さんへのずさんな訪問診療を行っているクリニックも少なくありません。患者さん側がそれを見極めるのは難しいかもしれませんが、せっかく自宅での最期を選んだからには、よい医療者に当たって欲しいです。