「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース27 余命に関する誤解

ケース6に出てきた、外科の立花先生との飲み会でのお話です。

 

 

Dr都(以下M):立花先生、久しぶり!今日はお誘いありがとう。

 

Dr立花(以下T):ちょっとやりきれないことがあってね…飲みに突き当ってくれ。

 

M:どうしたの?

 

T:実はさ、胃がんの患者さんに余命の話をしたんだけど、それよりかなり早く亡くなっちゃって、家族からクレームが入ったんだよ。

 

M:えーっ、何で言っちゃったの?立花先生らしくないね。

 

T:はじめは俺だって断ったよ。でも、「外れても文句は言いません。残った仕事のめどをつけるたいので教えてください」なんて言われてさ。

 

M:私も同じこと言われたことがある。で、言っちゃったんだ。

  

T:それでも「急変することもあるし、長生きすることもある。余命なんて分からないんですよ。」と余命については言わないようにしたんだよ。でも、その患者さんの家族が「余命が分からないなんて、この先生がん治療の経験が浅いんじゃない」なんてひそひそ話しているのが聞こえちゃったもんだから…

 

M:確かに、医者が余命を考えるときには、自らの経験とこれまで分かっているがんのデータをもとに推測するからね。患者さん側も経験豊富な医者だったら、余命を当てられると勘違いするのも仕方ないかもね。

T:そう、データはあくまでデータだから、間違いなくそこに医者の経験が加わるんだけどさ…。

 

M:でもさ、がんセンターの医者でも当てられないんだよ。国立がん研究センター中央病院で治療を受けている進行がん75人の予後について、医者が事前に予測できたかという研究があって、正確に予測できたのは3割くらいだったって。1/3の医者が予後を短く予測し、1/3の医者は長く予測したというから、本当に難しいんだよ。

 

T:そういえば、余命ってなんでこんなに難しいんだろうね。

 

M:患者さんは亡くなるちょっと前まで全身状態が良いことが多いからかなぁ。いったん症状が出ちゃってからは、急なことが多いよね。いよいよってなった時の、「あと数日です。」という予測はしやすいんだけどね。そういえば、緩和医療学会のガイドラインで、PPI(Palliative Prognostic Index)」と呼ばれる予後予測ツールがあるんだよ。

 

T:何それ、初めて聞いたよ。予後が予測できるんだ??

 

M:がん患者さんの全身状態、経口摂取、浮腫、呼吸困難、せん妄などの症状を数値化して、点数が高い場合、3週間以内に死亡する確率を85%の精度で予測できるというものなんだ。

 

T:確かに、それらの症状があれば、残りは長くはないと思うよね。でも、症状がいつ出るかは分からないからなぁ。進行がんで多臓器転移があっても、何の症状もない患者さんもいるしな。

 

M:いるいる。多臓器転移しているのに、何の症状もないまま、朝起きたら亡くなっていたというパターンも経験したことあるよ。

  

T:そう考えると、やっぱり難しいねぇ。都は患者さんから余命のことを聞かれた時に、なんて答えるの?

 

M:そうだなぁ。「誰にもわからないものです」なんて言っても通じないことの方が多いしね。そもそも患者さんは何で予後を知りたがると思う?

 

T:不安だから…?

 

M:それもあると思う。私なら「なぜ余命を知りたいんですか?」とまず聞くかな。そうすると、患者さんは、病気や死に対する大きな不安や、もしかするとやり残したこと、例えば仕事だとか、娘さんが結婚式を控えているとかがあるのかもしれない。患者さん自身も本当は余命なんて聞くのが怖いけど、聞くからには何かしらの強い思いがあるんだと思う。

 

T:なるほどね。だからと言って余命を伝えるの?

 

M:ううん。まずそこで患者さんの本音というか希望が聞ける訳じゃない。そうしたらそこに共感して、本人の希望に合った治療プランを考えていくんだ。そして一番大事なのは誤解を解いてあげることかな。進行がんであっても必ずしも症状が出る訳ではなく、痛みなどは程度対症療法で緩和できるので、これまで通りの生活が送れることが多いということ。ただし、いくつかの症状が出始めたら、その後は急に悪化していくことがあるということ。これらを理解してもらうことで、患者さんの負担がだいぶ軽くなると思う。

 

 

T:なるほど、それはいいね。使わせてもらおう。

 

M:いずれがんの症状が悪化して、いよいよという時がくるかもしれない。その時まであせらずにどっしりと構えて、できること、残されたことをやってもらうのが理想的かな。

 

 

T:「最悪に備えて最善を尽くす」だな。

 

M:そうそう、そんな感じ。対症療法で元気に旅行に行ったり、自分らしく過ごしている患者さんはたくさんいるからね。今は緩和ケアも発達しているし、患者さんを最期までサポートしやすくなったよね。

 

T:ホスピスはまだ足りないけどね。 

 

M:立花先生、ホスピスって終末期のケアを行う病院のことだと思っていない?

 

T:え、違うの?

 

M:違うよ。んー、長くなるのでホスピスの話はまた今度。患者さんの件、お疲れさまでした。とりあえず飲もう!元気を出して。

 

 

 

~ちょっと一言~

進行がん、特に末期になってくるとほとんどの患者さんが余命を気にします。ずっと下り坂を転げ落ちるように悪くなるイメージでいると不安が強いですが、いよいよという時まで元気に日常生活を送れることが多いと伝えると、皆さんだいぶ気持ちが楽になります。まずはその誤解を解いてあげることですね。