ケース17 子宮頸がんワクチンについて調べているあんりちゃん 前編
今回登場するのは、ケース2で登場したあんりちゃん。
自由研究のテーマで子宮頸がんワクチンについて調べているとのことです。
あんりちゃん(以下A):最近、子宮頸がんワクチンについてニュースで見たので、夏休みの自由研究でちょっと調べてみようかなと思ったの。いろいろと教えてね。
Dr都(以下Dr):了解。その前に、あんりちゃんはそのワクチンを接種したの?
A:実は私もお母さんも副作用が心配だからって受けていないの。クラスの女子みんなにも聞いてみたけど、接種している子は誰もいなかったわ。
Dr:誰もいないか…。副作用が多く疑われるとのことで、2013年6月に子宮頸がんワクチンに対して「積極的接種の奨励中止」が決まって、国が推奨しないみたいな雰囲気になっちゃたからね。マスコミも副作用問題を大々的に取り上げてたし、接種する人が激減したんだよね。まだ定期接種にはなっていて、自治体の補助で接種できるんだけど、自治体も接種を促すにハガキを送ったりしないしからその認知度は低いかもね。ちなみに2002年度以降に生まれた女の子だと、接種率は1%未満と言われているんだ。
A:そうなんだ。副作用のことはお母さんも聞きたいって言っていたから、あとでお母さんが来てからね。まずは子宮のがんについて教えてください。
Dr:子宮が洋なしみたいな形をしているのは分かるよね。洋なしを逆さにしたような形でお腹の下の方、骨盤の中に入っているんだ。下の方に向かって細くなっている部分を頸部、上の方の丸く大きな部分を体部というんだ。
A:保健体育で習ったわ。丸い部分で赤ちゃんが育つんでしょ。
Dr:そうそう。子宮の中でも頸部と体部は構造が少し違っていて、がんが発生する原因もそれぞれ違っているんだ。子宮頸部のがんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で、このウイルスの感染を予防するのが子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)ね。子宮体部のがんは、エストロゲンという女性ホルモンが原因なんだ。子宮体部のがんは原因がウイルスじゃないから、予防するワクチンはないんだ。
A:ヒトパピローマウイルスって、いろんな種類があるんでしょ。調べた時、16だの18だのたくさんの数字が出てきてよく分からなかったわ。
Dr:ヒトパピローマウイルス、HPVは150種類以上あると言われているんだ。でも、子宮頸がんの原因になるハイリスク型HPVと呼ばれるものはその中で13種類くらいで、中でも16型と18型というのが子宮頸がんの70%を占めているんだよ。米国がん協会の研究によると、16型もしくは18型に感染すると、そのうちの10%が3年以内に前がん病変と呼ばれるがんの一歩手前の状態になると言われているよ。
A:じゃあ、その16型と18型を予防するワクチンなの?
Dr:日本ではじめに発売されたサーバリックス®は16型と18型の2価ワクチンだね。その後に6型、11型が加わった4価ワクチンのガーダシル®が発売された。6型と11型は子宮頸がんではなく、尖圭コンジローマの原因となるタイプだね。今、世界では9価ワクチンが発売されているけど、日本ではまだ承認されていないんだ。
A:9価ワクチンになると副作用が増えそうね。
Dr:いや、9価だからと言って増えないみたいだよ。ワクチンは「価」の数も大事だけど、一番大事なのは接種するタイミングだね。HPVは性交渉によって感染するので、初めて性交渉をする前に接種するのが効果的なんだ。
A:性交渉ってSEXのことでしょ、すでに済ませちゃった人には効果がないの?
Dr:残念ながら、すでに感染しちゃったHPVを排除したり、前がん病変やがんになってしまった細胞をもとに戻す効果はないんだ。ただ、HPVは感染してもほとんどは自然に排除されてしまうので、再感染を防ぐ意味でも接種する価値はあるよ。でも、理想は初性交渉の前だね。
A:これって、性病…なの?
Dr:「性生活が盛んな人がなりやすい」とよく勘違いされるけど、性交渉の経験がある女性の50~80%は一度はHPVに感染すると言われているんだ。性交渉の経験が少ない人でも感染するし、感染経路は性交渉だとしても、性病と同じくくりにはしてはいけないね。
A:性交渉で移るってことは、男の人も感染しているということ?
Dr:そう、男性もHPVに感染するよ。男性の場合、陰茎がんや肛門がんの原因となるんだけど、子宮頸がんに比べてすごくまれで目立たないんだ。毎年約1万人の女性が子宮頸がんになって約3000人が亡くなっているんだけど、陰茎がんや肛門がんはその何十分、何百分の1くらいしかないんだ。
A:男の人が持ってたら女の人にうつすかもしれないのに、何でワクチンで予防しないの?おまけにがんになりにくいから?
Dr:本当は男性もHPVワクチンを接種した方がいいんだけどね。そういえば、男性でもHPVワクチンを接種していた政治家がいたなぁ。男性の場合は定期接種になっていないし、おまけに全くアナウンスされていないから分からないよね。
A:男の人だけズルいなぁ。
Dr:将来は、男性も女性も定期接種になって、子宮頸がんや男性のがんを予防できるようにしなくちゃいけないね。今子宮頸がんは、特に若い世代にどんどん増えているからね。2013年の国立がんセンターのデータでは、20代から30代の女性の57人にひとりが子宮頸がんになると言われていて、20年前と比べて2倍に増えているんだよ。
A:57人にひとりって、うち1学年2クラスなんだけど、学年にひとりは子宮頸がんになるってことね…怖いわ。
Dr:20代・30代って、ちょうど妊娠・出産の時期なんだけど、子宮頸がんの手術で影響が出ることがあるんだ。早期の場合は頸部の一部を切除する手術で済むので妊娠は可能だけど、子宮の出口の部分が弱くなって流産や早産が起こることがあるんだ。ちなみに、毎年1万人以上の女性がその手術を受けているんだよ。もし進行がんだった場合は、子宮を全て摘出しなければならなくて、妊娠できなくなってしまうんだ。
A:予防するに越したことはないってことね。HPVワクチンを接種すれば、一生大丈夫なの?
Dr:3回接種することで9年以上はワクチンの効果が持続すると言われているんだけど、じゃあ、20年後はどうかと言われると、ワクチンが新しいこともあり、その辺りはよく分かっていないんだ。あと、16型と18型だけで90%以上は子宮頸がんを予防できると言われているけど100%じゃないし、子宮頸がんの検診も同時に受ける必要があるね。
A:ワクチンだけじゃダメなのね。検診は何歳から受けられるの?
Dr:20歳からだね。20歳以上は2年に一回自治体から通知が来るので、それで受けられるよ。子宮頸がんは初期は自覚症状がないから検診で見つけるしかないね。生理以外で出血があったりおりものが増えたりといった症状が出ている場合には、進行している可能性があるんだ。
A:怖いわ。将来検診はしっかり受けなきゃね。
Dr:子宮頸がんはワクチンの副作用の問題もあるけど、検診の受診率が低いことも実は問題なんだよ。42%の人しか検診を受けていなくて、アメリカなどに比べると約半分なんだ。性交経験がある女性の50~80%が感染するHPVだけど、ワクチン接種率が低いので今後もどんどん子宮頸がんが増えていくし、検診受診率も低いので、進行がんや死亡率も増えていくだろうね。
A:何とかしなきゃね。先生さ、うちの学校に来て講演してよ。
Dr:確かに、子宮頸がんの問題はあんりちゃんたちの世代にもっと広く教えなければならないよね。検診を担当する自治体だけじゃなくて、医療者側がもっとアナウンスしないと。
A:そう思うよ。あ、お母さんがもうすぐ来るみたい。副作用のことは来てから教えてね!