「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース30 がんにまつわる嘘

今回登場するのは、ケース4、22で登場した大腸がん手術後の柴田さんです。

ご自身が大腸がんになってから、世間にあふれる様々ながん情報が気になってきたということですが…。

 

 

柴田さん(以下S):がんになってからというもの、ネットやら週刊誌やらであらゆるがん情報を気にするようになりましたが、いろいろありすぎて何を信じていいのか分からなくなりますね…。

 

Dr都(以下M):あー、一般の方はそうなっちゃいますよね。

 

Dr立花(以下T):ネットの情報は信じず、医者の言うことを信じるだけで大丈夫です!

 

M:もう、立花先生、変なこと言わないでよ。そんな簡単な問題じゃないんだから。

 

S:最近見たのは、「WHOは抗がん剤を推奨していない」「アメリカではFDA抗がん剤を禁止している」というものでした。アメリカで使っていないというのは嘘だと分かるんですが、WHOの話は本当かどうか分からなくて…。

 

T:それ完全なデマですからね!

 

M:もう、うるさい!黙ってて! 立花先生の言うように、これは全くの嘘の情報です。日本人が英語で専門的なことを調べられないと思って、医療以外でも「アメリカでは~」とか「WHOでは~」といった情報がよく流されています。この情報の出どころは不明ですが、WHOで抗がん剤を禁止しているということは一切ありません。

 

S:やっぱりそうですよね…。あとはそれに関連して「日本のがん死亡率は、先進国の中で唯一上昇している。それは抗がん剤を使っているからだ。」というのもありました。

 

T:そんな訳ないじゃん!高額医療費制度があって、こんなに安価で高度な治療を受けられる国はないと思いますよ。

 

M:それも有名なやつですね。がん死亡者数は世界各国で増え続けており、日本も例外ではありません。どんなに医療が進歩してもそれ以上にがんが増え続けているため、死亡者数が減ることはありません。ただし、死亡率でいうと、日本は先進国の中でも特に低くなっています。この主張をしている人たちは、増加し続けている死亡数のデータを死亡率に見せかけて、死亡率が高いと主張しています。

 

S:ひどいですね。でも、なぜそのようなことをするのでしょうか?

 

M:こういった情報を流布している人たちの大元は民間療法ビジネスを行っている人たちです。抗がん剤=毒だとか、逆に寿命を縮めると言い、体に負担が無いとして民間療法を勧める手口なのかもしれませんね。

 

T:確かに抗がん剤は体への負担がない訳ではないけど、自分たちの利益のために嘘をつくのはけしからんな。だいたい、こういったやつらって製薬会社が儲けるためにとか言ってるんだよなぁ、自分たちが儲けようとしているのにね。

 

S:でも、抗がん剤って寿命を縮めてしまうこともあるんですよね…?

 

M:抗がん剤を行ったから寿命が縮まったのか、元からのがんの勢いで亡くなったのかどうかは検証しようがないので誰にも分かりません。ただ、副作用で亡くなる患者さんはいます、非常に稀ですが。特に昔の抗がん剤は奏効率が悪かったので、副作用ばかりが目立つことがありました。でも、今の抗がん剤はデメリットより、メリットの方がはるかに大きいですよ。

 

S:分かりました。では、がんは治療すべきでない、放置療法というんですよね、それはどうなんでしょうか?

 

T:がんもどきってやつね。あれを信じて、手術で根治できた可能性があるがんを放置しちゃって、最終的に亡くなった患者さんがいるみたいだよね。放置していたら転移して死にそうになった時に、「あなたは本当のがんだったんです。何をしても治らないので治療しなくてよかったですね。」なんていうらしいじゃない。

 

S:えー、そうなんですか?

 

M:放置療法に対して反論してる医師は少なからずいて、その先生たちが経験した症例として、立花先生が言うような話は有名です。放置療法の理論はこんな感じです。「本物のがん」=転移するもの。これは治らないから、治療すると命を縮めたり体への負担が大きい。だから何もしない方が良い。「がんもどき」=放置していてもがんにならないし、消えてうこともあるので何もしない方が良い。がんもどきという表現はどうかと思いますが、前立腺がんや甲状腺がんのように放置しても何十年も大丈夫ながんも確かに存在します。ただ、他のがんまでひとくくりいするのは危険です。放置療法の最大の問題は、治療すれば根治できたかもしれない症例を見逃してしまうことですから。

 

T:放置しておけだなんて、楽な仕事だな。こっちは治すために必死になっているのに。 早い段階で手術していれば根治できたのにって患者さんを診るたびに、いつも悔しい思いをしているって言うのにさ。

 

M:うんうん、分かるよ。 

 

S:私の大腸がんは再発の可能性は数%はありますが、ほぼ根治と言われているので、手術できて良かったと思います。

 

M:柴田さんの場合はそれで良かったと思います。ただ、発見時にすでに転移してしまっているがんは根治はほぼ不可能で延命ということになってしまうので、そういった場合に放置療法を選ばれるのは選択肢の一つかなとは思います。標準治療には副作用がありますし、その人なりの考え方もあると思いますので、必ずしも標準治療が正解ではありません。

 

T:でもさ、今や抗がん剤も進んでいるし、5年以上生きられることもあるんだぜ。それなのに治療を選ばないってのは残念な感じがするな。治療しないという選択肢は尊重してもいいけど…。

 

M:そこで、放置療法のもう一つ問題点が出てきます。放置療法では、がんを治療すると必ず苦痛を伴うが、放置すれば何も苦しまずに死ねる。痛みはモルヒネで何とかなるし、症状が出たら対症療法で対応可能とうたっているのですが…

 

T:そんなわけないじゃん!出血や腸閉塞が起こることもあるし、乳がんが皮膚から顔を出すこともあるし、放置療法をして苦しみながら最期を迎えることなんてたくさんあるのに!無責任すぎるよ!

 

M:立花先生、抑えて抑えて。放置すれば、対症療法だけで苦しまずに安らかな最期を迎えられることはあるかもしれないけど、多くはないと私も思うよ。放置療法を崇拝している人って、放置療法で家族を亡くした人はほとんどおらず、標準治療に不満を持ってご家族が亡くなった方か、まだがんになっていない人が多いから、放置療法の最期については話が出てこないよね。

 

S:なんか恐ろしい話ですね…。

 

M:そうですね。全ての治療には合併症や副作用などのデメリットがありますが、通常はそれを天秤にかけてでも治療のメリットを選ばれます。でも、楽な選択肢を出されるとそれに流れてしまうのは、人間の心理として仕方がないのだと思います。それに、我々医療者にも問題はあります。がん患者さんの心のフォローができないままに標準治療を勧めることで、不安が強くなったり拒否反応を起こした患者さんが安易な民間療法などに流れてしまうことがあります。

 

T:今の日本のシステムじゃあそこまでフォローするのは無理だよ。手術も外来もこんなに忙しくっちゃね。

 

S:私も外科の主治医の先生にもう少し聞きたいことがあるのですが、いつも外来が混雑しすぎていて、なかなかできずにいます…。

 

M:まあ、すぐには解決できない問題がたくさんありますね…。がんについて気軽に相談できるサロンみたいなのがあれば良いのですけどね。都がん相談居酒屋みたいなのを作るかなぁ。

 

S:絶対に行きます!

 

T:がん患者さんを前にお酒なんて、不謹慎な感じもするな。カフェでいいんじゃない?呑み助め(笑)

 

M:確かに(笑)

 

 

~ちょっと一言~

民間療法も放置療法もビジネスとなっていて、いかに標準治療を貶めて自分たちのところに誘導するかという感じです。データを出して標準治療より優れていることを証明したり、放置することのデメリットもきちんと伝えるなど、正々堂々としてくれれば良いのですが…。