「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース29 お孫さんの妊よう性を心配する財津さん(75歳女性)

今回登場する財津は、飲み仲間の私の友人から、お孫さんの妊よう性について相談したいということで紹介されました。

 

Dr都(以下Dr):お孫さんが白血病になられたのですか。

 

財津さん(以下Z):はい。16歳の孫娘で、離れて暮らしているのですが、一昨日入院したらしく、白血病疑いということで検査中です。診断が付いたらすぐに抗がん剤治療が始まるようです。それで…あの…急いで卵子凍結をさせてあげようと思っているのですが、どうして良いかわからなくて。

 

Dr:なるほど。卵子凍結のことをよくご存知でしたね。

 

Z:何年か前にテレビで「がんになっても子供が欲しい」という特集番組がありまして、それで知りました。妊よう性でしたかしら…?

 

Dr:はい。妊よう性とは妊娠のしやすさのことです。抗がん剤治療を行うと妊よう性が低下する可能性があるので、妊よう性を温存するためには抗がん剤を使用する前に卵巣凍結などを行う必要があります。もしかすると、今回のお孫さんの場合は難しいかもしれません。

 

Z:抗がん剤が始まる前に何とかならないものでしょうか。

 

Dr:凍結するための卵子を採取するためには、生理周期に合わせて排卵誘発剤など薬を使用するので、どんなに早くても2週間はかかりますし、通常は次の生理周期からになるので、6週間ほどみなければなりません。もし白血病だったとしたら、そこまで抗がん剤治療を待てないと思います。あとは、ホルモンを調整するので体への負担も大きいですね。

 

Z:そうですか…。では、卵巣凍結という方法はどうでしょうか…?当時の放送ではまだ臨床試験段階となっていましたがもう行われていますでしょうか…?

 

Dr:まだ臨床試験段階のままです。卵巣凍結法だと生理周期と関係なく行えますが、卵巣を採取するための手術をしなければなりません。白血病なのに段階でその手術を行えるかどうかは分かりませんし、もし手術が行えたとしても採取した卵巣にがんが存在するかもしれないというリスクはあります。

 

Z:大事な孫娘の将来のために何とかしてあげたいのに…。抗がん剤治療を行っても妊よう性が残る可能性はあるのでしょうか?

 

Dr:もちろんあります。ですから、白血病は何段階かに渡って抗がん剤をしなければならないので、その合間に卵子凍結を試みると良いですね。もしくは寛解期と言われる落ち着いた状態の時に採取しても良いと思います。そのためには、今の段階から卵子凍結ができる病院やクリニックを探しておいて、主治医と連携が取れるようにしておくべきですね。ちなみに、お孫さんがお住まいの地域に卵子凍結や卵巣凍結を行える病院やクリニックはありますか?

 

Z:調べてはいませんが、入院したのが大学病院なので大丈夫かと。

 

Dr:大学病院でも卵子凍結を行っている病院は限られていますよ。可能な施設が一つもない都道府県もあります。

 

Z:そうなんですね…。もしもの時は、テレビに出ていた大学病院が私の家の近くになので転院も考えます。もともと、卵子凍結の費用は私たち祖父母で持とうと思っていたので。

 

Dr:卵子の採取も凍結も保険が効かず結構高額になりますから、それはありがたいと思います。もし白血病だとしたら、まず治すことに専念しなければならないし、妊よう性のことまで考える余裕はないかもしれませんが、財津さんがそこまで考えているということを伝えてあげると心強いと思いますよ。

 

Z:分かりました。タイミングを見て伝えてみます。

 

 

Dr:でも、良い時代になりましたね。

 

Z:どういうことですか? 

 

Dr:以前は医者も治すことだけを考えて、妊よう性のことがあまり話題にならなかったんですよ。治療上起こりうるものだから仕方ないって。子供が産めなくなる可能性を知らされずに小児期やAYA世代に抗がん剤治療を行われ、妊娠可能な時期になってからその事実を知ったという患者さんも少なくありませんでした。たとえ治療に専念しなければならなくて、妊よう性を失う可能性があるとしても、やはり知っておきたいですね。

 

Z:ごめんなさい、AYA世代って何でしょうか?

 

Dr:Adolescents and Young Adultsの略で、思春期・若年成人(15~39歳)のことを指します。小児やAYA世代のがん患者さんの場合は、まだ人間としての成長過程なので、治療以外のこと、例えば、皆と同じように成長できるかとか、卒業や就職できるかなど、家庭を持てるかといった長い長い将来への不安があります。それなのに、政府のがん対策でも、最近までこの世代への対策がすっぽりと抜けていました。特に抗がん剤と妊よう性に関しては、2014年にやっと癌学会や婦人科学会などで取り上げられるようになってきたくらい遅れています。

 

Z:私の孫も同じようなことで悩むのでしょうね。妊よう性についてだけでなく、精神的なものへの対策も進んでいるのでしょうか。

 

Dr:政府は教育や就職、経済的支援などへの対策を打ち出したり、AYA拠点病院を計画していますが、まだまだですね。妊よう性に関しては、2017年に「小児、AYAがん患者対する妊よう性温存の診療ガイドライン」が作られました。妊よう性温存治療ができない都道府県もありますが、 とりあえずは一歩進んだと思います。

 

Z:あら、もうこんな時間ですね。明日朝一で孫のところに行く予定なので、この辺で失礼いたします。どうも有難うございました。白血病ではないと良いのですが…。

 

Dr:私もそうでないことを願っています。こんなに思ってくれるおばあちゃんがいて、お孫さんは幸せですね。

 

 

~ちょっと一言~

今回は女性の小児・AYA世代の話題でしたが、この妊よう性には男性も含まれています。男性の白血病や精巣がんも、やっと妊よう性について医師から説明があったり、精子の採取・凍結保存が行われるようになってきました。精子を凍結保存してくれる施設が少ないなどの問題はありますが、補助金なども含めて政府の対策が進んでくれることを願います。