「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース9 未承認の抗がん剤を使いたいという田辺さん(48歳女性)

今回の話の内容は、都内のある大学病院の腫瘍内科に勤める友人からの相談をもとに作りました。患者さんから未承認薬の相談がよくあるそうで「先生のところで使えないなら、(未承認薬を)使える病院を教えてほしい」と言われるそうです。

 

 

乳がんの再発で治療中の田辺さんはこれまで、3回の抗がん剤のメニューが変わりました。そして、今使用している抗がん剤も効きが悪くなってきました。もし効かなくなったら、使用できる抗がん剤が無くなり、これ以上治療することができなくなってしまいます。そこで、ネットで調べた日本未承認の抗がん剤を使用できなかと考えました。しかし、主治医に相談したところ断られたそうで、私のところに相談にやってきました。

 

 

 

田辺さん:はじめまして、田辺と申します。よろしくお願いします。

 

Dr都:はじめまして都です、よろしくお願いします。紹介状を拝見しました。これまで5年にわたりトリプルネガティブ*1乳がんの治療されてきたのですね…。

 *1 ホルモン感受性やHER2と呼ばれる蛋白発現がない乳がんで、抗がん剤治療以外の方法がない 

 

田辺さん:はい。はじめて見つかった時は進行がんで、手術で切除後に抗がん剤治療を行いました。その2年半後に再発が見つかり、抗がん剤治療を続け今に至ります。

 

Dr都:そうでしたか。それは大変でしたね。今は抗癌剤はTAを使っているのですね。

 

田辺さん:はい。使い始めて3か月ほど経ちましたが、腫瘍マーカーもあまり変わらず、CTでもほとんど小さくなっておりませんでした。これまでの感じだと、数か月以内に腫瘍マーカーが上がってがんが大きくなると思うんです。

 

Dr都:そうですか…。田辺さんは乳がんに対して使える抗がん剤はすべて使用しているので、これが効かなくなったら他に手だてが無くなってしまいますね…。

 

田辺さん:はい。そうなると、あとは死を待つばかりとなってしまいます。何とか抵抗したいんです。

 

Dr都:そうですよね。

 

田辺さん:数か月前アメリカで承認されたばかりの、OPという抗がん剤を使ってみたいと思い、主治医に相談してみました。しかし、「うちでは未承認薬は使用できない」と断られました…。

 

Dr都:OPは2か月前に乳がんに対してFDA*2で承認されていましたね。でも、日本での承認時期はまだまだのようです。それにしても、よくご存じですね。

 *2アメリカの厚生労働省

 

田辺さん:はい。乳がん患者会がいくつかあり、インターネット上で情報交換がさかんなのですが、その中で知りました。

 

Dr都:確かに、乳がん患者会が盛んですよね。私も以前調べて、レベル高いなと思ったことがありました。

 

田辺さん:OPはアメリカの臨床試験で良い結果が出ていたので、ぜひ使用してみたいのですが、どのようにすれば良いか…

 

Dr都:未承認薬を使用するには2つ方法があります。1つ目は日本人の患者さんでのデータを出すために行う臨床試験、治験(ちけん)と言いますが、それに参加することです。ただ、その抗がん剤の治験を行うタイミングでないと参加できません。例え参加できたとしても、比較するためのもう一つの薬のグループに割り当てられると使用されません。

 

田辺さん:現在は治験の募集はありませんでした…。

 

Dr都:そうでしたか。2つ目は個人輸入して行うという方法です。

 

田辺さん:それは違法だったりするのですか?

 

Dr都:薬事法で定められた以下の条件に当てはまるのであれば問題ありません。

①治療上緊急性がある

②国内に代替品が流通していない

③自己の責任の下、自己の診断または治療のために使用する

 

田辺さん:私は ①、②は当てはまっていますよね?

 

Dr都:はい。あとは個人輸入して使用してくれる医者を探すことですね。

 

田辺さん:それは、どうやって探せばよいのでしょう?

 

Dr都:自由診療になるので、大学病院やがん専門病院の医師ではまずやってくれないですね。自由診療でがん治療を行っているクリニックや病院があるので、そこで問いあわせてみるしかありません。

  

田辺さん:何か気を付けなければならないことがあるのでしょうか? 

 

Dr都:日本人ではまだ安全性が分かっていない薬ですから、アメリカのデータである程度の予測は付くものの、実際何が起こるか分かりません。副作用が起きた時に、真摯に対応し処置ができる施設で行うべきだと思います。問い合わせる際に、その辺りまで確認してみることですね。

 

田辺さん:分かりました。他にもありますでしょうか?

 

Dr都:自由診療ですから高額になります。特に新しい薬ですし、かなりの額になるとは思います。海外での価格次第ですが。

 

田辺さん:どれくらい…でしょうか?

 

Dr都:以前、オプジーボという高額な薬が年間3500万円かかると言って話題になったのはご存知ですか?

 

田辺さん:はい、ニュースで見たことがあります。

 

Dr都:現在では価格がかなり下がっていますが、輸入品だと、当時の価格の1/10くらいからありました。

 

田辺さん:そんなに違うのですか?

 

Dr都:まあ、あれは特別で、日本での価格が異常だったんですけどね。あとは製造する国によっても価格が変わります。途上国のものだとかなり安いです。

 

田辺さん:でも、途上国のは不安になりますね。

 

Dr都:そうですね。だから、製造された国も確認しなければなりません。OPについては、私も調べていないのでいくらかかるか分かりませんが、100万以上は軽くかかるでしょうね。

 

田辺さん:そうですか…。じゃあ、ちょっと難しいですね。

 

Dr都:一部のクリニックでは、通常使用量よりかなり減らして価格を調整してしようしているところもあります。

 

田辺さん:どういうことでしょうか。

 

Dr都:例えば200万円かかる個人輸入抗がん剤を、1/10くらいの量投与して1回20万円くらいに設定するとかですね。患者さんがギリギリ支払えるくらい価格に。

 

田辺さん:減らしても効くものなのでしょうか…?

 

Dr都:たぶん効かないでしょうね。

 

田辺さん:なのに、なぜそんなことをするのでしょうか…?

 

Dr都:正直分かりません。でも、その辺りも確認すべきですね。

 

田辺さん:分かりました。患者会の掲示板にも書き込んで、相談してみます。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

Dr都:また何かありましたらご相談ください。

 

田辺さん:はい。よろしくお願い致します。