「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース26 乳房再建手術について悩む吉澤さん夫婦(48歳、女性)

吉澤さんの奥さまは5年前に乳がんで左の乳房全的術を行っています。

術後の抗がん剤治療も済んで落ち着いたところで、乳房再建手術のことを考える余裕が出てきたようです。

 

 

吉澤さん(以下Y):都先生、実はうちの妻が乳房再建手術を受けると言っているんだけど、ちょっと相談に乗ってよ。

 

Dr都(以下Dr):乳がんの手術をされていたんですね?知りませんでしたよ!5年経って再発はしていなのですね?

 

Y:5年前に左の乳房全摘出術を行って、その後5年間ホルモン治療を行って、今のところ再発はないよ。

 

Dr:良いですね。5年前の手術時は乳房再建を考えなかったのですか?

 

Y:実は、乳がんの診断から手術まで妻がひとりで決めてしまって…。私と子供たちには、夕食の時に「お母さんは乳がんになりました。○月○日に手術をします。」と突然告げられて、晴天の霹靂だったなぁ。

 

Dr:強い奥様ですね…。

 

Y:はい。乳房再建手術について何も相談されなくて…。

 

Dr:そうでしたか。NPO法人エンパワリングブレストキャンサーが行った「乳房再建手術に関するアンケート調査2015年版」によると、「乳房再建手術を受ける前の相談相手」についての質問で、①夫 40.8%、②家族(夫以外) 37.9%、③友人・知人  32.7%、④自分ひとりで決断してから事後報告 13.3%、⑤誰にも相談していない 9.5%という結果でした。自身で決断される人が2割ほどいらしゃるようです。

 

Y:情けない話なんだけど、乳房を失うのは妻なので、男性の私が口を出せることではないのかなと…。今思うと、不安はあったんだろうとは思うけど…。

  

Dr:先ほどの調査では「乳房を失うことへの不安感」への回答で、「まずは治療に専念しようと思った」「命が助かるならやむを得ない」がお子さんがいる既婚者ではダントツに多く、7割前後ありました。「どうしていいかわからなくなった」が4割、「再建手術があるので不安はなかった」が3割という結果でしたよ。奥様がどうだったかは分かりませんが。

 

Y:リンパ節転移があることを気にしていたので、まずは治療に専念しようと思ったのかもしれない。そして、ホルモン剤を5年飲み終わった時点で、今再建手術の話が出たのかなと。

 

Dr:そうかもしれませんね。あとは、当時は再建手術が今ほど盛んではなかったですし、情報が少ない分不安も多かったのかもしれません。

 

 Y:実は私もよく分かっていないので、再建手術について教えてもらえないかな。

 

Dr:分かりました。まず、乳房再建手術には自家組織を用いたものとインプラント(人工物)を用いたもの2種類があります。

 

Y:妻はシリコンが何とかとか言ってたな、それがインプラントのことかな?

   

Dr:そうです。インプラントは、おそらく奥様が手術された当時は保険が効かず、自費で100万円くらいかかっていたのですが、今では保険が効くので選択される方が増えてきています。インプラントの場合は、入れる前にティシューエキスパンダー(以下TE)というバッグを挿入して、3か月~6か月かけて皮膚やその周辺の組織を延ばさなければなりません。TEを埋め込む手術と、TEとインプラントを入れ替える手術の2回手術が必要になります。

 

Y:やっぱり硬いの…?変なことを聞いてすまない。

 

Dr:たぶん、男性がイメージしている硬さよりは柔らかいですよ(笑)乳房がかなり垂れている場合には難しいですが、見た目もきれいにできます。

 

Y:異物だよね…入れることで危険はあるの?破裂とか…?

 

Dr:異物なのでアレルギー反応が起こる可能性はゼロではありませんが、基本的には起こりません。昔の液状タイプの場合は、破損した場合に中の液が漏れて、それでアレルギーが起こることがありました。破損する可能性は10年で1、2割ほどありますが、現在のインプラントはジェル状なので多少破損しても漏れにくくなっています。

 

Y:10年で1、2割も破損するんだね。

 

Dr:はい。なので、再建手術後も定期的にチェックしなければなりません。気付かないくらいの小さな破損が起こることもあるので、10年での入れ替えを勧めている病院が多いですね。

 

Y:妻は今48歳だから、あと何回かは手術が必要なのか…。

 

Dr:感染が起こった場合や、乳房の中で移動してしまった場合、被膜拘縮と言ってインプラントを包んでいる膜が堅くなってしまった場合などは、10年を待たずに再手術することもあります。

 

Y:なかなか大変だな…。もう一つの方法はそういったのはないの?

  

Dr:自家組織を用いた場合は、感染に強いですし、インプラントに特有な長期的な合併症はほとんどありません。最大の合併症は、移植した組織にうまく血流が行かず組織が壊死してしまうことです。壊死の範囲が大きければ再手術になり、再建した組織を除去しなければなりません。

 

Y:それは怖いね。それぞれ合併症は怖いねぇ。

 

Dr:そうですね。乳房を再建するためには結構大きめに皮膚、皮下脂肪、筋肉を取ってくるので、摘出した箇所には大きな傷とこれらの組織の欠損がおきます。体への負担も結構あります。手術時間も長いですし、入院期間も10~14日ほど必要です。

 

Y:自家組織だっけ…結構大変なんだね。

 

Dr:自家組織の場合、何より柔らかいですし、姿勢で形が自然に変化する、加齢による乳房の下垂も自然だというメリットがあります。インプラントの場合は、手術していない側は乳房の下垂しても、インプラント側は保ったままで左右差ができます。

 

Y:左右差が出るとつらいだろうね。それぞれメリットとデメリットがあるんだね。ふーっ、勇気を出して乳房再建手術について妻に話しかけてみるよ。夫婦だしね、俺の術式の選択に参加しなくちゃね。

 

Dr:ぜひ! 喜ぶと思いますよ。