「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース20 治療をあきらめたくない中村さん(61歳、女性)

今回登場するのは、肺の病気とリウマチがある中村さんです。

肺がんが見つかったりましたが、持病のため、手術をはじめとした一切の治療ができないと言われたらしく、どうしたらよいか電話で相談がありました。

 

 

中村さん(以下Nさん):私はリウマチと特発性肺線維症で治療中なのですが、先月肺がんが見つかってしまって…。腫瘍マーカーやPETの結果から、肺がんで間違いないだろうということでした。

 

Dr都(以下Dr):特発性肺線維症の方は肺がんを合併することがありますからね。それで治療はどうされることになったのですか?

 

N:それが…主治医からは「肺線維症があるから、治療をするとかえって寿命を縮める。何も治療しない方が良い」と言われまして…。

 

Dr:そうなんですね。確かに肺線維症の患者さんは、手術や抗がん剤放射線治療の影響で肺の状態が悪化し、最悪命にかかわる可能性があります。でも、必ず起こるわけではありません。ちなみに、PETで肺以外に転移はありましたか?

 

N:リンパ節が1つだけ腫れていましたが、それ以外は転移はありませんでした。がんの大きさは2cmで横隔膜ぎりぎりにあるそうです。

 

Dr:ステージは2Bか3Aですね。手術をトライしてみる価値はあるかもしれませんね。ホスピスを考えるには早い気がします。

 

N:一応、内科の主治医に紹介されて外科も受診したんですけど、外科の先生からも「手術はしない方がいい」と言われました。先生方の、合併症を心配されるお気持ちも分からないではないのですが、がんを抱えたまま過ごすのは嫌なんです。

 

Dr:もう一度主治医と相談してみてはいかがでしょう?

 

N:外科を受診した後、内科の主治医の先生ともう一度話をしたんです。そうしたら「ホスピスはどこも混んでいるから、早いうちに申し込みをした方が良い。紹介状はいつでも書きますよ」って…。

 

Dr:セカンドオピニオンについてはお話しされましたか?

 

N:ずっと私の肺を診てくださっている先生が「治療法がない」と言われたくらいなので、よそに行っても同じような返事だと思い、セカンドオピニオンは考えておりませんでした。息子や親せきが、陽子線や重粒子線、免疫療法はどうかとかいろいろと話を持ってきてくれるのですが、どうしてよいか分からなくて…。でも、諦めたくないんです。

 

Dr:リンパ節転移がありますし、肺線維症だと普通は陽子線や重粒子線は断られるでしょうね。リウマチでおそらく免疫を抑える薬を使用していると思うので、免疫細胞ががん細胞を攻撃する免疫療法も厳しいでしょうね。手術後の合併症で状態が悪化する可能性はありますが、手術治療が一番根治の可能性があります。

 

N:他の病院では手術をしてくれるのでしょうか?

 

Dr:肺の状態次第ですね。中村さんは今酸素は吸っていますか?普段の生活で、買い物に出かけたり、2階まで階段を上がったりしできますか?

 

N:労作時だけ酸素を1L吸います。安静にしていると大丈夫で。買い物の時は酸素ボンベを携帯しますが、自宅内では使わなくても2階へ上るのはできます。

  

Dr:分かりました。中村さんのような肺線維症を含めた特発性間質性肺炎の肺がんの手術では、術後約10%の症例で急性増悪をし、そのうちの術後30日以内の死亡率が45%というかなり厳しいデータがあります。それを中村さんが理解したうえで手術を希望されるのであれば、手術を引き受けてくれる外科医はいると思います。セカンドオピニオンをしてみてはいかがでしょう。

 

N:希望の光が見えてきました。

 

Dr:中村さんのような高リスクな患者さんの場合、リスクを恐れて手術を断る外科医もいれば、手術をしたいがために簡単に引き受けてしまう外科医もいいます。良い外科医だと、リスクをしっかりと評価し、様々な合併症の可能性だけでなく、その対策まで説明してくれます。どれだけ親身になってくれるかが見極めるポイントですね。

 

N:いろいろなお医者さんがいるんですね…。

 

Dr:高リスクな患者さんの手術は、患者さんだけでなく、外科医も相当な覚悟がいります。万が一合併症で死亡した時は、訴えられることだってありますからね。

 

N:手術を引き受けるだけでありがたいのに、訴えるなんてそんな…。

 

Dr:患者さん本人が納得していても、亡くなった後に遺族が訴えることもあります。そういった可能性を考えて、高リスクな手術には消極的な外科医もたくさんいますし、その気持ちも分かります。でも、手術をしてくれる外科医は必ずいますよ。 

 

N:でも、どうやって見つければよいのでしょうか。

 

Dr:「肺線維症(間質性肺炎) 肺がん 手術」でインターネットで検索をかけると、結構な数の病院が出てきます。がん患者さんは時間が限られているので、その中で数か所だけピックアップしてセカンドオピニオンを受けると良いと思います。同じような手術をどれだけ経験しているかを訪ねてみてください。

 

N:分かりました、やってみます。ありがとうございました。

 

 

~ちょっと一言~

高リスクながん患者の治療には、はなから拒否反応を示したり、逃げ腰だったりと消極的な医師は少なくありません。何かあれば訴えられる時代なので、それも仕方がないことだとは思います。しかし、高リスクな患者さんでも、ちゃんと治療を引き受けてくれる医者はいます。諦めずに、インターネットを活用したり、病院に問い合わせたりして探し当ててほしいと思います。