「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース10 超高齢のお父様の胃がん手術に悩む林さん(50歳男性)

今回登場する林さんは私の知り合いですが、85歳のお父様に胃がんが見つかったとのこと。

彼はご実家は鹿児島で、すぐには駆けつけられず、そばに住んでいる長男・長女さんが病状や治療方針などは聞いているそうです。

担当医から手術を勧められ、本人はやる気だそうですが、お兄様方は高齢を理由に悩まれているそうです。はたして、85歳で胃がんの手術をするのはどうなんだろうか…ということで相談がありました。

 

 

 

林さん:やあ、都先生、忙しいところ申し訳ない。

 

Dr都:いえいえ。メール見ましたけど、お父様が胃がんだそうですね。

 

林さん:そうなんだよ、胃が悪いってずっと聞いてたんだけど、この前突然血を吐いたらしく、調べたら胃がんだって。親父はもう85なんだけどさ。

 

Dr都:85歳ですか…結構な年齢ですね。でも、主治医医から手術を勧められたということは、お元気な方なんでしょうね。

 

林さん:足腰は多少弱ってきたけど、畑にも毎日往復30分かけて歩いて行ってるし元気だよ。まだボケてもいないしね。でもだからといって手術に耐えられるのかねぇ。

 

Dr都:今の時代、85歳以上の超高齢者の手術はとても増えてきています。田舎の病院に行くと、手術患者の1割が80歳以上という病院もありますよ。ちなみに、私は95歳の女性の胃がんの手術をしたことがあります。

 

林さん:へーっ!その人は大丈夫だったの?

 

Dr都:手術は無事に終わったものの、術後にせん妄(もう)といって認知症のような症状が出たり、退院予定日の前日に不整脈で心臓が止まりそうになったりと大変でした。

 

林さん:ひえーーーっ!

 

Dr都:でも、退院後は元気に外来に通ってこられていました。高齢すぎて術後の抗がん剤ができなかったので、再発が心配ですが…

 

林さん:95歳かぁ。うちの親父はまだ若いかなぁ。都先生、どう思う?

 

Dr都: 全身麻酔や手術に耐えられるかどうか、いろいろ検査してみないと分かりませんが…でも手術しましょうと言われたのであれば、大丈夫そうですよね。

 

林さん:じゃあ、大丈夫かな。

 

Dr都:超高齢者手術に関してはいろいろと議論があるのですが、85歳まで生きた男性は余命が平均6年*1と言われているので、あと6年生きるために手術するのは悪いことではないと思います。ただし、若い方と比べて合併症のリスクは高いですが。

  *1 85歳時点での平均余命 男性6.31年、女性8.40年(平成27年簡易生命表より)

林さん:合併症ね…。手術で死ぬ可能性もあるってことだよね。

 

Dr都:はい。ゼロではありません。超高齢患者さんは何が起こるか分かりませんし、起こってしまうと元の状態に戻れない可能性があります。

 

林さん:うーん。手術は成功したけど、寝たきりなる可能性だってあるわけだよなぁ。手術をしなければ元気だったのに…って。

 

Dr都:はい。でも、林さんのお父様は吐血しているとのことなので、どのみち手術をしないと命に関わると思います。

 

林さん:そうだよなぁ。出血だけ止める手術ってのはできるのかな?

 

Dr都:林さんのお父様は吐血するくらいなので、おそらく進行がんだと思います。もしリンパ節転移がなければ、胃とその周囲のリンパ節を少し切除するだけの手術も選択肢に入るとは思います。その方が時間も短く、合併症も少なくなります。

 

林さん:リンパ節は少し腫れているって言ってたな。

 

Dr都:そうですか…。周りのリンパ節に転移がある場合、リンパ節をしっかり取らないと、手術してもリンパ節を残してしまうことになります。でも、リンパ節をしっかり取る、郭清(かくせい)と言いますが、そうすると手術時間が長くなり体の負担は増えます。あとは、郭清による合併症のリスクが少しですがあります。

 

林さん:胃だけを取れば、手術が短くて合併症も減らせるが、がんのリンパ節を残してしまう。リンパ節をしっかり郭清すれば、がんは残らないけど体の負担が増える上に合併症が起こりやすくなる…か。難しいね。

 

Dr都:はい。これは主治医の先生との相談ですね。あと超高齢者の手術では、先ほどお話ししたせん妄がかなりの確率で起こるので、そうなった時に安静が保てなかったり、点滴を引き抜いたりということが起きます。これも合併症の一つです。

 

林さん:うちの親父はしっかりしているから大丈夫かな、それは。

 

Dr都:しっかりしていて、認知症がないような方でも起こるんですよ。

 

林さん:うへっ。でも、起こったらどうすればいい?

 

Dr都:ご家族に1日中ずっと付いていてもらうか、夜間不在の場合は抑制帯というので縛ってしまうかですね、あまりやりたくはありませんが。だいたい昼夜逆転し、夜間に起こるので付き添う家族はかなり大変です。でも、だいたい数日でおさまります。

 

林さん:その時は、俺も手伝わなきゃな。

 

Dr都:そうですね。あとは肺炎も起こりやすいです。特にタバコを吸っている方は痰が多いので、肺炎は要注意です。お父様はタバコは?

 

林さん:あの時代の人にしちゃ珍しく、全然吸ってないんだよ。今はタバコに厳しい時代じゃない、先端を行ってたんだって自慢してるよ。

 

Dr都:良かったです。それに日常生活も自立されて畑に歩いて行かれるくらいだから、呼吸機能も問題なさそうですね。あとは、手術後にご家族が手伝って、痛い中頑張って歩かせたり、深呼吸させたり、回復への意欲を出すために励ましたりというのが重要ですね。

 

林さん:それは皆で頑張るよ。じゃあ、俺の知り合いの医者に聞いたら大丈夫って言われたって、兄貴たちに話してみるか。

 

Dr都:そうですね。超高齢者の手術は、ご本人の体力などもそうですが、ご家族のサポートが本当に大事なので、頑張ってください。

  

林さん:あ、先生、忘れてた、腹腔鏡ってのかな。その手術は体に負担が少ないって聞いたことがあるけど、どうかな?

 

Dr都:傷が小さいので確かに体に負担は少ないので、早期であればやっても良いと思います。超高齢者で進行がんだったら、私ならしないですかね。進行がんの腹腔鏡手術は結構大変なので時間がかかるので。

 

林さん:そっか。じゃあ、ずばっと開けた方がいいんんだな。それも言っとくよ。

 

Dr都:ずばっと(笑)

 

林さん:都先生、今日はありがとうね。

 

 

 

 

<まとめ>

・超高齢者(85歳以上)の手術は増えていて、年齢だけで判断するのではなく、麻酔や手術に耐えられるかどうかと、本人にの気力で判断します。

 

・超高齢者の胃がんの手術にかんしては、リンパ節郭清をしっかりやるかどうかは賛否両論ある。ただ、したからと言って合併症のリスクは変わらないという報告もあるし、しなかったからと言って生存率が変わらないという報告もあるので、胃がんの程度や主治医の判断によります。

 

・超高齢者の手術では、家族のサポートがとても重要で、術後の回復を左右する。