「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース18 子宮頸がんワクチンについて調べているあんりちゃん 後編

今回はワクチンの副反応についてお話していきます。

 

 

お母さん(M):今、娘に子宮頸がんワクチンを受けさせるかどうか、母親たちの間でも話題になっているんです。受けても大丈夫なものかどうか教えて頂きたくて。

 

あんりちゃん(A):私も自分のことだからしっかり聞いておきたいわ。

 

Dr都(Dr):マスコミが騒いで話題になっちゃいましたからね。結論から先に言いますと、接種しても問題ないというかすべきだと思います。これは多くの医者がそう考えていますよ。

 

M:でも、重篤な副作用が起こる可能性があるんですよね…?

 

A:インターネットで副作用の人の動画を見たんだけど、手足が震えたりして怖かったわ。

 

Dr:それは不随意(ふずいい)運動と言って、自分の意識とは関係なく、体がけいれんしたように動くものです。あれが映像で流れたことで、ワクチンへの恐怖感が一気に広まりましたね。ではまず、HPVワクチンによる副反応で一番多いものは何だと思いますか? そうそう、ワクチン接種後に起こる副作用は「副反応」という言い方をするので、これから副反応で統一しますね。

 

M:その…不随意運動でしょうか?

 

A:HPVワクチンは痛いって聞いたよ。あと失神するって。

 

Dr:二人とも違います。HPVワクチンは2種類ありますが、使用量が多かったサーバリックス®だと、50%以上の確率で、疼痛、発赤、腫脹、疲労感が起こります。ちなみに、どちらも9割前後で疼痛があるため、痛いワクチンと言われます。

 

M:50%以上って…怖いですね…。

 

Dr:ただ、痛みや腫れは一時的なもので、必ず消失します。次に、10~50%で、痒み、腹痛、筋肉痛、関節痛、頭痛など、1~10%でじん麻疹、めまい、熱などがあります。これらもすべて数日以内に治まります。あとは1%未満ですが、注射した部位の知覚異常、感覚鈍麻、全身の脱力があります。他に頻度は不明ですが、四肢の痛み、失神などがあります。もう1種類のガーダシル®も似たような感じです。

 

A:インターネットだけど、光を見ると目が痛むという人も見たことがあるわ。

 

Dr:そうですね、HPVワクチンの副反応には様々な症状が見られています。体の不調だけでなく、精神的な不調を訴える人もいます。

 

A:何で精神的におかしくなるの?

 

Dr:医学的にそれがよく分かっていません。でも、ワクチン接種とは関係なく、若い女性にはHPVワクチンの副反応と同じような症状が見られることは、以前から小児科や心療内科の間では知られていたんですよ。

 

M:それはどういうことですか?

 

Dr:思春期の子供たちは心身ともに大きな変化が起きています。その中で親子関係や友人関係、進路の問題などストレスが重なっていくと、心のバランスが崩れて、めまいや吐き気、疲れやすい、憂うつなどの精神的な症状が起きやすくなります。同時に、動悸や手足の不随意運動、皮膚や関節の痛み、手足の感覚が無くなるなど体の症状も起きることがあるのです。

 

A:あー、3年生にちょっとおかしくなったって人いたなぁ。奇声をあげたり急に倒れこんだりしてるって。受験のストレスかは分からないけど。

 

Dr:それも思春期の子供に起きてもおかしくないね。こういった思春期に起こりやすい症状がHPVワクチンと関係しないかを調べたデータがあって、その結果驚くべきことが分かったので話題となっているんです。

 

M:えーっ、ニュースではまったく放送していませんでしたが…

 

A:私はインターネットで見たわ。

 

Dr:名古屋市が、HPVワクチンによる薬害を証明するために、ワクチンによると考えられていた「月経不順」「関節や体が痛む」「ひどく頭が痛い」「体がだるい」「体が自分の意思に反して動く」「以上に長く寝てしまう」など24の症状についてアンケートを取って接種者と非接種者を比べてみたんですね。その結果、両者の間に差がなかったんです。つまり、これらの症状は、ワクチン接種に関わらず思春期の女子に起こりうるものだということが証明されたのです。2013年にHPVワクチンによる薬害だと大騒ぎしたマスコミは、この結果をまったくと言っていいほど報道していないんです。

 

A:私はテレビのニュースを見ないから知らないけど、インターネット上では結構記事が出ているわよ。

 

Dr:マスコミがなぜ報道しないかは不明ですが、この結果は2015年末に名古屋市のホームページに掲載されて、その半年後になぜか削除されています。削除された翌月に、全国でHPVワクチン薬害集団訴訟が起きましたが…それとの関係は不明です。集団訴訟に関しては、大々的にマスコミも報道していたんですけどね…。最近になって、当時削除された結果が論文として発表され、再び話題となっています

 

M:じゃあ、接種しても大丈夫なんですね。

 

Dr:ただ、名古屋市のアンケートだけでは何とも言えない部分もあります。HPVワクチン訴訟で問題となった就学不能なほどの激烈な記憶障害など、症状の強さは比較できません。それに、実際に被害を訴えている方の原因が完全には解明されていない中で、思春期特有の心の問題だと決定付けるのはまだ早いのかもしれません。

 

M:本当のところはまだ分かっていないということですね。

 

Dr:そうですね。ただ、最終的な決着が付くには時間がかかるので、今はリスクとベネフィットで考えるしかありません。重篤な副反応が起きる可能性は100%は否定できないけど、子宮頸がんを防ぐために接種するかどうかですね。

 

A:重篤な副反応が起こったとされている人たちは今どうなっているのかしら?

 

Dr:すっかり回復されている人もいます。いまだ解明されていないながらも、整形外科や神経内科、小児神経科など様々な科が協力して、症状をよくするために努力した結果だと思います。

 

A:良かったぁ!

 

Dr:気を付けなければいけないのは、名古屋市のアンケート結果だけで思春期によくあることだと言い切ってしまわないことです。副反応の問題が取り上げられる前は、心因性だから精神科に行くようにとか、大げさだ、嘘をついているなど詐病扱いされるなど、症状に対してまともに向き合ってくれない医者もいました。そのせいで治療が遅れてしまった人がたくさんいます。

 

 

M:親としてはショックですね。もちろん本人が一番ショックでしょうけど。

 

Dr:また、アンケートでこういう結果が出たため、ワクチン推進派の中には、ワクチンを接種していなくても同じように苦しんでいる人がいるんだからと主張する人がいます。そんなことを言っても、ワクチン接種後に実際に苦しんでいる人にとっては、何の解決にもなりませんし傷つけるだけです。また、HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という名前が一部で提唱されていますが、その名前を付けられても症状が具体的な治療法はありませんし、場合によっては負の烙印を押されたと感じる人もいるでしょう。

 日本医師会が作成した「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」では、無理に病名を付けずに、“持続痛”など一般的な名前の方が望ましいとしています。

 

 

A:いまだに苦しんでいる人たちはどうすれば良いのかしら。

 

Dr:ワクチン推進派や否定派がお互いの主張をぶつけ合って、患者さんを置き去りにしている現状を何とかすることでしょうか。原因や機序を解明するためには患者さんの協力が必須です。一刻も早い解明ができるように原因や機序の解明に向かって、患者さんとともに前を向くことが大事だと思います。例えば、こういった遺伝子異常があれば副反応が起こりやすいなども分かるといいですね。

 

M:ワクチンを接種する子供も親も、安心できるようになって欲しいです。

 

 

~ちょっと一言~

HPVワクチン問題はデリケートな問題で、今は論文の不正に関しての裁判など話題となっています。賛成派や否定派の主張も含めて、いまだに苦しんでいる患者さんにとっては何の解決にもなりません。苦しんでいる患者さんを救うために、また子宮頸がんを減らすために、一致団結して解明に当たることが重要だと思います。