「医者に聞きたい!」ドクター都のほろ酔いがん相談

がんについて対話形式でじっくりと分かりやすく説明していきます。ほろ酔いで(笑)

ケース19 骨折がきっかけで前立腺がんが見つかった椎名さん

今回登場するのはお父様に前立腺がんが見つかった飲み仲間の椎名さんです。

発見した経緯が前立腺がん独特のものでした。

 

 

椎名さん(以下S):いたいた、都先生探していたんだよ。隣いい?

 

Dr都(以下Dr):構いませんよ。何か飲まれます?

 

S:じゃあ、ビールで。そうそう、実は親父がさ前立腺がんになったんだよ。

 

Dr:前立腺がんは最近増えていますね。2016年のデータでは、男性の患者数は胃がん、肺がんに次いで3位で、2020年には1位になると予想されています。年齢が上がるにつれて増えていき、70歳以上だと200人に1人くらいが前立腺がんになると言われています。お父様は今おいくつですか?

 

S:そんなに多いんだね。親父は今81歳かな。それがさ、この前転んで腕の骨を折ったんだけど、それで見つかったんだよ。おしっこするのに時間がかかるとか、たまに尿漏れしたりはあったらしいんだけど、それ以外は痛みとか何も無かったらしいんだ。そんなことってあるの?

 

Dr:前立腺がんは早期では症状がほとんどないですし、進行して排尿障害が起きても、年配の人だと「歳だから仕方ない」と思っていて、発見が遅れることがありますね。比較的早期でも骨に転移することがあるし、骨転移部分の骨折を契機に見つかることもまれにありますよ。

 

S:じゃあ、親父はそれかなぁ。そういえば、肋骨にも転移しているって言われたな。

 

Dr:これから他にも出てくるかもしれませんね。お父様はがん検診は受けていらしたのでしょうか?5自治体からPSA検診のお知らせが着ていたと思うのですが。

 

S:何だい、そのPSAって。親父は病気は一つもないから病院にも全然いかないんだって自慢していたくらいだから、検診も受けていなかったかもね。

 

Dr:PSAというのは前立腺特異抗原のことで、前立腺がんや、前立腺肥大、前立腺炎などがあると高い値が出ます。PSAが高ければ高いほどがんの確率が高くなるので、前立腺がんの検診に用いられているんですよ。

 

S:俺は今44歳だけど、そのPSA検診を受けた方が良い?

 

Dr:前立腺がんは50歳以上に多いので、自治体の検診は50歳以上の人に通知が行きます。44歳だと人間ドックのオプションか自費で調べることにになりますね。前立腺がんは遺伝的要素もあるので、家族歴がある人は40歳を過ぎたら調べても良いですね。

 

S:毎年調べた方が良いの?

 

Dr:もしPSAがかなり低ければ、3年に1回で良いと思います。前立腺がんは基本的に進行がゆっくりですし、50歳未満だと確率も低いので。

 

S:じゃあ、慌てなくてもいいってことね。もしPSAが高かったらどうするの?

 

Dr:直腸診やエコーで調べて、怪しければ生検といって直腸の中から針を刺して組織を取ります。それでがんかどうかと、悪性度が分かります。もしがんが小さくて悪性度が低ければ、急いで治療せずに監視療法といって定期的にPSAを見ながら経過観察したすることもあります。

 

S:がんなのに何も治療しないってこともあるんだね。不思議な感じ。

 

Dr:前立腺がんは、死後の解剖ではじめて見つかったり、前立腺肥大症の手術で見つかったり偶然に見つかることが少なくないんです。そのような場合は、生命に影響を与えない前立腺がんだった可能性があります。早期発見して全例に治療をするとなると、治療の必要がない前立腺がんを過剰診断・過剰治療してしまうことになります。ですから、早期かつ低リスクのがんの場合は様子を見ることもあります。

 

S:でも、治療をした方が安心じゃない?

 

Dr:治療には合併症が起こる可能性があるので、治療をしたがために不利益を被る可能性はあります。もし治療をするとしても、より合併所の少ない局所だけ治療を行うこともあります。局所治療の種類位は、HIFU(ハイフ)と呼ばれる超音波治療、がんを凍らせて死滅させる凍結療法、放射性物質を入れたカプセルを前立腺内に埋め込む小線源療法などがあります。

 

S:へーっ、前立腺がんの治療っていろいろあるんだね。

 

Dr:前立腺がんは予後が良いので、こういった局所治療が積極的に行われますね。中~高リスクの症例や進行した症例になると放射線治療や手術治療が行われますが、それでも予後はかなり良いです。転移がなければ、5年生存率は100%に近いですから。例え転移があっても5年生存率は6割ほどで、他のがんに比べてはるかに高いです。

 

S:親父の場合は、ホルモン治療と骨の注射をすると言ってたかな。

 

Dr:転移がある場合はホルモン治療が選択されます。前立腺がんは男性ホルモンによって成長するので、女性ホルモンを投与して男性ホルモンの分泌を抑えたり、男性ホルモンの作用をブロックする抗男性ホルモン剤を投与したりします。また、去勢術といって精巣を切除して男性ホルモンを出ないようにする治療もあります。

 

 

S:精巣…痛そうだな。

 

Dr:もしお父様がもっと若くて、残り寿命が長いようでしたら、ホルモン剤に加えて抗がん剤を使うこともあります。81歳という年齢を考えたら、そこまではしないということなのでしょう。あとは、骨転移による痛みやカルシウムの流出を防ぐ注射を定期的に行うみたいですね。

 

S:なるほど。何で骨折で前立腺がん?という疑問からはじまってたけど、その理由や今後の治療のイメージが湧いてきた。親父も分かっていないだろうから、説明してやろうっと。都先生ありがとう。

 

 

~ちょっと一言~

本文中では触れていませんが、PSAが正常でも前立腺がんが存在する場合が少なくないため、PSAを検診で測定することに疑問を唱える人もいます。しかし、PSAを測定することで、症状が出にくい前立腺がんを早期に見つけられるようになったのは事実ですし、個人的には意義のある検査かなと思います。ただ、過剰診断の可能性もあるので、そのあたりは難しい問題です。